GIGAスクール構想はどうなのか

 急遽決まったGIGAスクール事業について、大いに期待するものの、このままのスケジュールや制度設計で進めたらせっかくの事業が上手く行かないことが想定されるので、個人としてではあるけれど、意見を出していこうという趣旨。

 文科省を一方的に批判したい訳ではありません。国、自治体、先生、保護者、企業などの関係者の意見が集まって、日本の教育ICTがより良いものとなることを望みます。


 さて、元々文科省は、9月の概算要求時点では「GIGAスクールネットワーク構想の実現」と銘打って、R2から4年度までの3ヵ年で"校内NW整備だけ(Wi-Fi整備除く、タブレットも対象外)"を実施する予定でした。単年度で1万校対象に375億円、つまり3ヵ年で3万校対象で1,125億円で見込んでいました。 https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668.htm


 単純に割り算すると、1校あたり国費ベースで375万円(事業費ベースなら750万円)となり、これだけ予算があればそこそこの整備はできる内容だったと思います。また3年あるので、最初の1年は管内の学校1校だけモデル的に発注してみて、そこで色々な知見を得てから、残り2年で整備完了を目指す、といった余裕を持った対応ができたでしょう。


しかし、です。

  政治の動きは良く分かりませんが、急遽「経済対策補正予算」として予算が前倒しとなり、予算規模も一気に2,318億円もの予算が計上されました。しかも、財源措置として最終的な自治体負担が2割という内容で、これなら自治体の渋い財政部局を納得させやすいものでした。  そして、概算要求では校内NW整備だけが対象でしたが、補正ではタブレットも対象となり、また条件はあるもののWi-Fi整備も対象となり、事業名称も「GIGAスクール構想」となりました。これでニュース等では"これで遅れた日本の教育ICT環境も進むぞ!"といった感じになりました。


が、担当者としては「ちょっと待ってよ」となります。


まずNW整備のスケジュールです。 予算は単年度主義なので、R1年度補正予算で計上された場合、その予算が使えるのはR2年度までです。つまり、R2年度の1年間で全部完成させねばなりません。(※事故繰越は考慮しない。まず無理。) 補助要綱などが未定なので入札仕様書の内容も固まらない訳ですが、仮に4月すぐに入札手続きに入っても、かなりの金額になることや公告期間等を考慮すると、どんなに急いでも契約は6月末でしょう。そこから、契約業者と現地調査して、簡易設計して、Wi-Fiを整備するなら事前サーベイして‥‥となると、一体いつから動けるのか・・・。


また、そもそも「入札が成立するのか?」といった不安もあります。ただでさえ建設業界は人手不足が言われるのに、オリンピック関係などで受注がひっ迫しています。 https://www.kentsu.co.jp/webnews/view.asp?cd=190613590017&area=0&yyyy=0&pub=1

また夏場の災害では、いまだ被災住宅の復興がままならない地域もあります。被災住宅よりもこっちの事業を優先させるような話にはならないのでは。


 もう1つ、10ギガ対応のケーブルは「Cat6A」となりますが、従来の「Cat5e」とはプラグ成端の規格が異なるので、ある程度の規模の業者なら問題ないでしょうが、対応できない小規模な工事業者が出る可能性もあります。 そんな中で、7月から9月ごろの僅かな期間に一気に数万校が入札発注する訳です。


日本全国で数万校が一斉に発注!!・・・とても無理では。

仮に入札不調で再入札になったら、その時点でスケジュール的にもう年度内完了はアウトでしょう。かといって随契とはいかないし・・・

また、従来対象外とされていたWi-Fi整備(アクセスポイント)も、「校内LAN整備と一体的に発注する」のであれば、補助対象となりました。Wi-Fi未整備校にとっては非常にありがたいですが、逆に問題も出ます。

1つは、予算総額のひっ迫です。「割り算すると、1校あたり国費ベースで375万円(事業費ベースなら750万円)」と上述しましたが、これにWi-Fi整備も含まれるなら前提が変わってきます。校内LAN整備とWi-Fi整備で1校750万では、学校規模にもよりますが、かなり、というかとても厳しい。 もう1つは、既に校内LANはギガ対応済みで、これからWi-Fi整備をしようと思っていた学校にとっては、不公平感が残るでしょう。



あと、補助制度について。

文科省はあくまでも「施設整備」のフレームで進めており、そのために例えば「タブレット充電保管庫は建物に固着すること」などという条件を付けています。しかし、大手メーカーのラインナップを見ればわかるとおり、そんな製品は一般的ではありません。また仮に全国の学校が一斉に充電保管庫を発注した場合、業界全体でも数量が絶対的に不足する…とは某メーカーの方。


教育ICTに関しては文科省も平成20年あたりから色々と動いていたはずです。 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm

 なのに、なぜ「教育ICT専用の補助制度」を今日までに作れなかったのか?


この辺は経産省は上手くやっていると思います。企業に国費を全額投入して、自治体に無料で学習サービスを利用させるなど、個人的には画期的に思えます。(もしかしたら経産省の事業フレームとしては普通なのかも知れませんが。)



更に、「補助対象外の必需品」をどうするかも問題です。 タブレットで言えば、どうも本体だけが補助対象のようです。しかし、一人1台で運用しようと思うと色々他にも必要です。また、運用保守なしに使い続けることはできません。それらは自治体負担で整備しないといけませんが、それができなければ、単なる置物になってしまいそうです。支援員もどうするか・・・


 補助対象のものなら渋い財政部局も予算をつけても、それ以外の自治体全額負担のものにはどこも渋い顔をするはずです。


 さて、このままいけば、対応できないまま時間切れになる自治体が多く出るでしょう。既に知見のある先進自治体は「待ってました」とばかりに一気に動くし、一方で後進自治体は何もわからず尚遅れるのでは。そうなると、制度が目指す「遅れた自治体の教育ICT推進」とは逆に、先進校と後進校の格差がますます開くはず。


 この事業は「誰一人取り残すことのない」教育を目指すのに、その前段階で取り残される自治体・学校がでるのでは。そうなったときに文科省は「それは自治体の責任だ」と突き放すのだろうか・・・


 それで、現時点でどこの自治体が進んでいるのか・遅れているのか、ですが、これはもう自治体のHPを見るのが早いでしょう。都道府県なら、奈良県・宮城県は速攻でGIGAスクール事業に対応したページを作ってます。これまでの積み重ねがある自治体はほんと動きが早いです。  一方、ICTの「I」の字も無い教育委員会のHPも多いです。というより、殆どがないですが。結局、今回の国補正の有無にかかわらず、普段から準備万端なところは速攻で対応するし、そうじゃないところはますます何もできない・しない。既に差は顕在化しています。


 その差は何が原因かと言えば、結局は人ですね。身も蓋も無いですが。  ただ、一般的な行政の業務を一通り経験した立場で言えば、「教育ICT」は一般的な行政の業務と比較して、明らかに異質ですね。 例えば、予算決算、補助金、許認可、法令・文書、議会、定型の契約・発注や調査物などはどこの部署でも良くある事務で、業務のフレームは、まあ決まったものです。根拠となる法律や条令は違っても、ある程度の経験年数があればできるものです。できなくても、基本は前例踏襲で何とかなるものです。



 しかし、教育ICTはまるで違う。  第1に、教育ICTはここにしかない業務。同様の業務は他のどこの部署にも無い。だから趣味で教育ICTを勉強でもしていない限り、ほぼゼロからの勉強となる。これまで配属された部署の経験がほぼ役に立たない。だから向いてない人が来ると、本当に何も進まない。

 第2に、幅広い専門知識が必要。セキュリティ、ネットワーク、タブレットやWi-Fi、最近では仮想化技術とかを理解するだけの知識、多くの企業が展開する各種のサービスなど、キリが無い。しかも最新情報がどんどん更新されていく。正解も無い。「この法律を覚えればOK」といったゴールがない。これを「面白い」と思うか、「面倒だ」と思うか。

 これが定型的な事務仕事だと、何もやらないでいると書類がたまって仕事が進んでいないことが丸わかりだが、「知識の習得」といったことは、何もしなくても「何も勉強していないこと」は顕在化しないから、素養の無い人がくると、本当に何も進まない。

 第3に、単なる書類仕事で終わらない。配置が本庁か、学校か、出先事務所かで違いもあろうが、パソコンで書類をきちんと作ってOK、といったものと全然違う。自分でどんどん情報をネットや企業や先進校に取りにいかないと、座っていても何も得られない。また得た情報を学校現場にフィードバックすることができなければ意味がない。またそれを継続しないといけない。


 第4に、ここでは「前例踏襲」はむしろ有害。もしも5年前のタブレットの仕様書を「前例踏襲」してそのままで発注したら、とんでもないことになります。でも、2,3年でローテーション異動する職員にとっては厳しいでしょう。一般的な機器リースは5年だったりしますが、通常のローテーション人事なら、担当はその間に3人変わります。知識や経験がストックされていかない。


 色々書きましたが、じゃあ自分の自治体はしっかりできているかと言えば、そんなこともない訳で。例えばうちの教育ICT担当の課長は、去年まで土木事務所で用地交渉などを行う部署の課長でしたが、いきなり「個別最適化された・・・」なんて言っても、わかる訳がありません。因みに定年退職まであと1年。


 さて、だらだらと思いつくままに書きましたが、結論めいたことを書くなら、以下のようになりますか。


◆文科省

 個人的には文科省に対しては同情的で、当初の概算要求時点の事業フレームなら「校内LAN整備だけ」であり、これは元々施設整備補助金にもあったメニューなので、それを微改修して3カ年でやるのならば、大したことにはならない目算だったのではないでしょうか?

 それがいきなり、膨大な予算とキツキツのスケジュールとなったのは想定外だったと思います。でも、このまま進めて本来の目的である「日本全国の学校の教育ICTの推進」が失敗すれば、結局無意味です。例えば予算を基金化するなど、何とかスケジュールに余裕を持たせてほしい。

 また、補助金もハードベースではなく、ICTに相応しいものに修正してほしい。

 文科省のミッションは、「事業費を予算化して終わり」ではなく、日本、つまりは全ての自治体の教育ICTの推進であるはずです。


◆自治体

 自分のところを考えてみても、やはりもっと努力が必要です。

 で、その前提として、やはり「教育ICT推進を担えることができる組織」が必須です。 2,3年のローテーション人事で前例踏襲でできる仕事ではないです。これを人事・組織担当が理解する必要がある。可能なら、情報系の資格を配属要件にしたりしてもよい。

 現時点で自治体としての「教育ICT推進計画」を作成して、HPで公開していない自治体は、まあまともな推進体制はできていないと思ってよい。6月に「学校教育の情報化の推進に関する法律」ができてるのに、それから半年以上たって全く手付かずというのは、流石にヤバい。



 ・・・疲れたので、取り合えずここまで。

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